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残響的薫香 Vol.7「だから、ここじゃない君の生き方もあるよ」@シンハジメマシテ FLOAT MAGAZINE

COLUMN

残響的薫香
-まるであの時の香りのような-
by FLOAT MAGAZINE

「そこに滲みついてる空気」ってある。
意図的でないし、自然にあるだなんて片づけたくない。
それらが五感を通り過ぎる時、僕たちは強く「思う」に悦ぶ。
味わい、聴き入り、そそられながら「思う」をくゆらす。
“言葉”から弾かれ漂っているそれらをつかまえてみたい。
酔いきってしまう手前まで。

文/野呂瀬 亮

ごめんなさい。こういうときどんな顔すればいいかわからないの…。

 どうやらついに気のせいでは無いようだ。俺はモテない。お姉さん飲み屋では硬直をキメこみ、カウンターで並んだ女性には赤面し、マッチングアプリには泣けなしの自尊心で徹底抗戦を挑んでいる。主張しがちな顔面が誤解を招きがちだが、内面は元来シャイで奥手なサードチルドレンなのである。ハートに巻かれた包帯は一体誰が解き解してくれるのだろうか。大丈夫?キンコン西野も言ってたよ?恋愛も仕事も一緒だって。

 気づけばいつもの人たちと、いつもの店で乾杯を繰り返し、いつものサウナで汗を流す毎日。これも楽しい、楽しいんだけれど、ふと忍び込んでくるこの停滞感はなんだ。きっとこれはパターン青、逃げちゃダメだ。自分の心の壁を打ち砕くのは自分しかいないから。

 意を決して連絡を入れたのは、ずっと気になっていた「あの人」だった。

「あの人」をお誘いして・・・

 「誘ってくれてありがとう。仕事終わったら向かうね!」

 こんなふうに誰かを食事に誘ったのはいつぶりだろうか。「あの人」とはライブハウスで話をしたことはあるけれど、こうして二人で過ごすなんて初めてのこと。緊張と新たな扉を開く高揚感に胸が高鳴る。

 この日予約をとったのは、2022年の12月にリニューアルオープンした「シン・ハジメマシテ」。一人で来るのは初めてなのだけど、ご飯も美味しいし、何よりスタッフさんの人柄や雰囲気ムンムンのインテリアが大切な席を盛り上げてくれると確信していた。

イケお兄さんのキラースマイルをお納めください

「いらっしゃいませ!」

 ソワソワしながらご挨拶するのは店主のハジメさん。前身のお店である「はじめまして」で少し話をした程度なのに、「先日もいらっしゃってくれましたよね?」なんて粋な言葉をくれるイケお兄さんだ。その一言がどんなに嬉しいものか…。クールながら丁寧で程よい距離感がなんとも心地いい。ひとまずお先に駆けつけビールをいただくことにする。

パイントグラスのナイスなサイズ感

 ネオン管が艶っぽく光る店内には、音楽や漫画、アニメなど、どこかノスタルジックなアイテムやグッズが散りばめられている。どれもハジメさんの趣味なのだろう。大衆居酒屋のような、先輩に連れて行ってもらったいつかのスナックのような。グラスに描かれるキュートなキャラクターがほっこり緊張を解してくれるようだった。

「お待たせ!遅くなってごめんね!」

 ふとそんな声が店内に響く。「通しの刺身かな?」そう思って振り向くと、声の主は店主ではなく、入口にいる「あの人」だった。

お通しの刺身も最&高

 「お〜シマじゃん久しぶり!元気してた!?」

 カウンター越しに久々の再会を喜ぶ店主と客人。そう、気になっていた「あの人」とは、心優しきハードコアドラマーの「シマさん」。大好きなバンドの先輩であり、至る所でその名前を聞くちょっとした飲み屋の有名人である。いつか二人で飲みたいと思っていたところで、ハジメさんとは旧知のバンド仲間だという情報を入手。思い切って今回お誘いしてみたという訳だ。私だけのモナリザには、まだ当分出会えそうにない。

ネオ居酒屋のネオ座席

 挨拶もそこそこに早速念願の乾杯を交わす。気恥ずかしいし緊張するけど、やっぱりシマさんと一緒にいると心がぽかぽかする。お誘いしてよかった。そこに運ばれてくるのは名物メニュー「シン・カラアゲ」。この提供スピードの速さも人気店の所以だ。さすが元ドラマーのハジメさん、会話も料理もタイム感が抜群なんです。

「なにこれ!美味い!」

全員食べた方がいいシン唐揚げ。ファーストラブ

 一口食べて思わず声を上げるシマさん。そう、ここの唐揚げ半端ないんです。カリッと揚がった衣に、プリプリジューシーな鶏肉。その上にたっぷりかかった刻み青ネギと特製の甘辛ダレが最高のマッチングを演出する。まさに止められない食欲の予感。忘れたくても忘れられないほど。

 シマさんとの会話はとても楽しかった。ライブハウスという枠を飛び越え、地元の先輩として色々とアドバイスをもらう幸せな時間。これもハジメさんがいたから、このお店があったからのこと。

 ところで次に運ばれてきた「だし巻き卵」も美味すぎる。しっとりフワフワで出汁がシミシミなんです。つられて空のグラスが並ぶこと並ぶこと。

厚焼き卵シミッシミのふっかふか

 気がつくと店内には多くのお客さんが訪れていた。仕事帰りのサラリーマンや、若い学生たち、カウンターにはキープボトルを傾ける常連さんの姿も。

「ハジメくんはいい男なんだよ。」

 あまり多くを語らない店主の代わりに、シマさんから色々なエピソードを聞く。茨城から大学進学で山梨に来たこと、昔一緒に古着屋で働いていたこと、ドラムと歌が上手なこと、そして友達が多いこと。昔から知っている友達が繰り返し言うんだから間違いない。 

無限芋ソーダターンに入ります

 お店の内装やインテリアはもちろんハジメさんのプロデュース。現代風とレトロ感をハイブリッドさせたニューレトロな「ネオ居酒屋」がコンセプトなのだそう。「あとセンスもいいんだよね!」そんなシマさんの言葉に深く頷くばかりだ。思わずつい長居してしまった頃には芋ソーダを何杯飲んだか分からない。もういっぱいあるけど、もうひとつ増やしましょう。

我々は酔っ払った。今日も46度の半透明だった

 「僕もお客さん同士も最初は誰も初対面。このお店を通してそんな皆がお互いに仲良くなれたらいいなと思ったんです。」

 店名の由来を話してくれるハジメさん。「お客さんとの会話を大切にしている」そう話す店主の周りに人が集まらない訳が無い。ご飯や空間も素晴らしいけど、ハジメさんに会いたくてこの店に足を運んでいる人も多いのだろう。

 「あと、あまり流行りとか口コミに流されない方がいいんじゃないかって思うんです。僕はサブカルチャーとかが好きで、周りと違っても自分が気になったものや場所には自ら積極的に触れてきた。おかげでかけがえのない経験や友人たちにも出会えたんです。お店も同じことで、話題のお店ばかりでなく一度ここに来てみて欲しいし、ここで過ごした時間が新しい物や場所につま先を向けるきっかけになってくれたら嬉しいです。」

カウンターでハジメさんと話すのが良すぎる

 ハジメさんの言葉を聞いて、今日自分がここに来たのは何かの導きだったのかもなんて思った。新しいシマさんの一面に出会えたことも、ハジメさんの想いに触れられたことも。ただの偶然なのかもしれないけど、少なくとも自分で行動を起こして、自分で引き寄せたかけがえのない出来事。

 残りのお酒を飲み干して大好きな先輩二人と挨拶を交わす。今日はごちそうさまでした。そして本当にありがとうございました。

看板もかわちいんです

お店からの帰り道は心なしか軽やかだった。
こんな夜に辿り着けたなんて、まだまだ俺も捨てたもんじゃないな。
自分を狭めるのも広げるのも、自分がどこに行くかも自分次第。
足を運んで良かった。出会えて良かった。
こんな気持ち、初めまして。

他のおつまみも色々食べたいな

シン・ハジメマシテ

住所:山梨県中巨摩郡昭和町清水新居1370
TEL:055-269-8142
営業時間:18:00〜翌3:00
定休日:不定休

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