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残響的薫香 Vol.6「ヤバスキスギル」@NAP bed and lounge FLOAT MAGAZINE

EAT & DRINK

残響的薫香
-まるであの時の香りのような-
by FLOAT MAGAZINE

「そこに滲みついてる空気」ってある。
意図的でないし、自然にあるだなんて片づけたくない。
それらが五感を通り過ぎる時、僕たちは強く「思う」に悦ぶ。
味わい、聴き入り、そそられながら「思う」をくゆらす。
“言葉”から弾かれ漂っているそれらをつかまえてみたい。
酔いきってしまう手前まで。

文/野呂瀬 亮

 甲府市中心街にある小さな裏路地「柳小路」。元々存在は知っていたけれど、なんとなくハードルが高くて足を踏み入れることができなかったエリア。昭和期の賑わいから閑散期を経た近年、オシャレなカフェやイケてるゲストハウス&ラウンジ等が軒を連ねている。“イケてるゲストハウス&ラウンジ”か‥。ヤバスギル、ハードル高すぎる‥。でも何かが変わる気がするから、待っているだけじゃ波は来ないから、意を決してドアを開けよう。

窓にイラスト描いちゃう系のオシャレハードル・・・

「とりあえずテキーラでいいですか?」

 店内に入るや否や完全に不意をつかれてしまった俺。確かにオシャレだった。BGMもイケてるHiphopが流れていたし、評判のクラフトビールも並んでいた。でも「NAP」のお出迎えはテキーラだった。

「冗談です!驚かせてごめんなさい!!(笑)」

 繰り出した強烈すぎるパンチラインを慌てて回収するのは常連さんたち。呆気に取られてしまったが、いたずらっぽく笑う無邪気なムードに一切の不誠実さはない。寧ろ店内に流れる緩やかでルーズなグルーヴが、先程までの身体の強張りをほぐしてくれるようだった。

いい感じに雑に扱ってくれるトコロもタイプです

「すいませんねコイツらがいきなり(笑)こちらのカウンター席へどうぞ!」

 ここで丁重にフォローを入れてくれたのがマスターの吉田さん。飄々としていながらも、アケボノ並のフトコロを漂わせるナイスガイだ。緩急の効いたお家芸にすっかりペースを掴まれ、“イケてるゲストハウス&ラウンジ”の高すぎるハードルは容易く蹴散らされてしまった。

「初めてですよね!冷蔵庫にもたくさんクラフトビールありますけど、とりあえず生でどうですか?」

 カウンターには日替わりのタップが2つ備えられており、冷蔵庫の中には一見ビールとは思えない奇抜なラベルがぎっしりと並んでいた。どうしたら良いかわからないのでとりあえず言われるままにオーダー。クラフトビールの生なんてハジメテ///。

濃いめの期待感マシマシ

 目の前に置かれる俺の生。確か丁寧に説明をしてくれたけど、あまり覚えていない‥。まあ細かいことは置いておいて、とにかく飲んでみるのがきっとBEER-BOYイズムだろう。

うまい。

 クラフトビールは何度か飲んだことがあったけど、これまで味わったことのないフレッシュな口当たり。それにアルコール度数はなんと8%!ガツンとした喉越しでありながらも、余韻する繊細な苦味や香りに作り手のこだわりを感じる。あまりの美味しさに秒で飲み干してしまいそうな駆けつけ一杯目。こうなると少しお供が欲しくなり、インスタでずっとチェックしていた「NAP BURGER」を注文する。甲州ワインビーフ100%のパティと、近所のパン屋さんへ特注しているバンズで作る看板メニューだ。

スケートのデッキ見てるみたい

 香ばしい匂いに生唾を飲みながら冷蔵庫をディグる。何かどのラベルもかっこいいんです。思い切ってジャケ買いするのも面白そうだけれど、まだビギナーの俺は吉田さんレコメンドのIPAをチョイス。果物のようにジューシーな味わいで、これもめちゃくちゃ美味しい!(やっぱり説明は覚えていませんでした‥)
 そうこうしていると満を辞してハンバーガーが到着。溶け出すチーズと肉汁滴るパティが美味しそう‥。絶妙なバランスで重なる盤を少しだけプレスし、自慢のビッグマウスでいざ実食。

「キムタク持ち」は諦めたよ

うめぇ‥。

 それしか出てこない。肉肉しいビーフから溢れるラブジュース、シンプルな味付けにコクを添えるチーズ、オイリーな口の中をシャキッと中和させるフレッシュな野菜。全てのバランスが完璧なんです。続け様に少しビターなIPAを流し込む。最高。これがNAPのやり方。

これ、俺の部屋にも貼りたいんすけど

「学生時代にバックパッカーをしてたんだけど、当時迎えてくれた海外のゲストハウスみたいな宿を山梨に作りたいと思ったんだよね。一緒に飲んでそのまま泊まれる、友達の家みたいな場所。」

 そう話すマスターの吉田さんは福島県の出身。大学生活を山梨県で過ごし、都内の建設系企業へ就職。数年後Uターンして飲食店の店長などを経験した後、2018年に「NAP bed and lounge」をオープンさせた。センス抜群な内外装は、スナックの居抜きだった店舗を友人らとDIYで作り上げたものだというから驚いた。

夢のひとつも 語っちゃったりすんの

「当時アメリカの店に並ぶクラフトビールを見て衝撃を受けたんだよね。味もラベルデザインも常識にとらわれていなくて。日本には無いそういう感覚にどんどんのめり込んで行ったのが本格的にビールを追求し始めたきっかけかな。」

 確かにNAPに並ぶビールはどれも個性的で斬新なものばかりだ。その豊富な品揃えが評判を呼び、2020年にはクラフトビール専門ショップ「BEER for NAPPER」をオープン。まさにヤバスギルバイタリティ。おまけに仕事をしながら独学で英語まで習得してしまったという吉田さん。ナニモノにも媚びずに己を磨くスタイル、マジでリスペクトっす。

バック・トゥ・ザ・フューチャー観れるよ

 ユルめのビートが流れる店内に響く笑い声。オープン当初から足繁く通い続けているという常連さんたちは皆、吉田さんを中心に立場や年齢を超えて和やかな応酬を繰り広げていく。

「ここは周りに馴染めないはじかれ者の集会場みたいな場所だから(笑)」

 そんな甘噛みも無礼講、滲み出るリスペクトから彼らの信頼関係をうかがい知る。この店ではカウンターに並んだらみなBrotherなんだ。

グラスがずっしり重めでキュンでした

「さっきはすみません‥(笑)乾杯しましょう!」

 先程のテキーラ兄さんたちから再び飛んでくる不意打ち。やっぱりいくつになっても「輪」に入れてもらえるのって嬉しい。こんな偶然の巻き添えが止められないから、俺たちは平日から街をふらつき、よく遊び、そしてよく学ぶんだろう。何だか判断もつかないままでも、自分が好きなものには巻き込まれていたい。
ありがたく乾杯させてもらいます。お近づきの印に。

少し足がすくんでいたけど、勇気を出してこの波に乗ってみて良かった。
NAPに来てみて良かった。
この感じ、やばい、好きすぎる。

これ、家の玄関にも貼りたいんすけど

NAP bed and lounge

住所:山梨県甲府市中央4-3-25
TEL:080-9867-2589
営業時間:【LUNCH TIME(金土日のみ)】11:30〜13:30 L.O.【BAR TIME】18:00〜22:00 L.O.
定休日:月、火曜

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