Go To "Ind"SPA

残響的薫香 Vol.4「We are “SPA’s” Brothers」@草津温泉 FLOAT MAGAZINE

Go To "Ind"

残響的薫香
-まるであの時の香りのような-
by FLOAT MAGAZINE

「そこに滲みついてる空気」ってある。
意図的でないし、自然にあるだなんて片づけたくない。
それらが五感を通り過ぎる時、僕たちは強く「思う」に悦ぶ。
味わい、聴き入り、そそられながら「思う」をくゆらす。
“言葉”から弾かれ漂っているそれらをつかまえてみたい。
酔いきってしまう手前まで。

文/野呂瀬 亮

 こうしてキーボードを叩いていると、気付けば大体外は真っ暗。ずっと流しっぱなしにしているHip Hopがループし、いじくり回している言葉の数々が頭の中をぐるぐる周り始める。一息入れる頃には時刻は夜の9時近く。ポツネンと一人PCに向かう1日の終わり・・。いやまだ間に合う、まだ終わらせない。この夜を使い果たしてザイオンを目指そう。気づいたら俺は無心で車に飛び乗っていた。

 閉館1時間前に到着したのが行きつけの草津温泉。「いらっしゃいませ〜」と迎えてくれるお姉さんの笑顔に思わず体の節々が緩む。脱衣室のロッカーは決まって入って右手の洗面台前。日々の腹筋の成果を鏡で確かめながら浴場へと向かう21:10。

受付のお姉さんたちがみんな優しい‥、帰りにコーヒー牛乳買お

 演歌の名曲が流れる浴場内には極楽の光景が広がっている。お湯の中で瞑想しているかのようなジャパニーズガンジーや、身体中の毛を丁寧に剃り落としているメンズの姿。それに加え仲間同士の談笑がスモークに包まれた場内に心地よくエコーしている。ここが俺のザイオン「至福の湯クサツ」。

 お湯は全部で4種類。入ってすぐ見える中温風呂、その奥には高温風呂と水風呂があり、場外にこじんまりとした露天風呂がある。泉質は「ラドン含有、芒硝、重曹、食塩泉」、なんと加水・加温を一切していない源泉掛け流しの温泉なんだとか。ラドンって何ですか?
 まずは頭から、洗顔、髭剃り、身体と、上から洗っていくのがイントロの流儀。そこからAメロの中温風呂に突入する。ダンディたちの唸り声や、ジェントルメンの鼻歌に合わせ深く息を吐く。少しとろみのあるお湯を頬に馴染ませると感じるラドン。ラドンを肩や首に揉み込み、ラドンで流す。この瞬間がとてつもなくチルなのである。ラドンって何ですか?

 体が熱ってきたらBメロの水風呂へと入水。草津の水風呂は冷た過ぎず入りやすいのが嬉しい。なぜこの序盤に水風呂?とお思いになるかもしれないが、この後の大サビに備えての大切な下ごしらえなのだ。

 一方、決まってこの頃になると洗い場ではある「サイファー」が執り行われる。おもむろに一人の老紳士が他のメンズの背後に立つやいなや、ものすごい勢いでタワシで背中を洗い始めるのだ。やべー勢いですげーシェイクされたメンズの背中は一面紅に染まっている。するとすかさず隣にいる若大将が湯船のお湯や水を交互にかける、というこれが一つのバース。これを3人ほど代わる代わる回したところで草津サイファーは終了するのだ。

露天も結構熱めで気持ちいいんです

 「同じ釜の飯を食った仲」という言葉があるが、彼らはまさしく「同じタワシで背中をシバき合った仲」。年齢や境遇を超えて生まれる彼らのグルーヴに圧倒されながら、少年のようにふざけ合う大人たちの「裸の心」が垣間見える瞬間に、何とも言えない1日の終わりの心地良さを感じる。このホールにいるみんな、目線こそ合わないけれど同じ湯ぶねに浸かったブラザーなんです。みんな今日もおつかれさま。

 水風呂で肌をしっかりとクールダウンさせたところでBメロが終了。いよいよサビの源泉高温風呂に足を踏み入れる。初めに言っておくが、先ほど水風呂に入ったのはこの高温風呂がとんでもなく熱いからなのだ。

 意を決し、息を整えて入湯。・・・「やはり熱すぎる(10秒)」「熱いを通り越して痛い(10秒)」「ジクジクと刺すように痛い(10秒)」「でもめちゃくちゃ気持ちいい(10秒)」「にしてもさすがに熱すぎる(10秒)」「二度と入るか(10秒)」これらの計60秒で超短尺のサビが終了。

 死に物狂いで高温風呂を飛び出し、水風呂になだれ込んだところで間奏のブレイクタイム。先ほどまでの熱狂の余韻に浸りながらクールダウンしている頃には、もう高温風呂に向かおうとしている俺。完全に高温風呂ジャンキーになってしまっている。

 「二度と入るか(10秒)」二度目の悪態をついて、あっけなく60秒の大サビが終了したところで、命からがら向かうのは水風呂ではなく中温風呂。ここであえて身体を冷やさずにおくのがアウトロのポイントなのである。

 ・・・何も感じない。熱いのか冷たいのか、水中にいるのか浮かんでいるのか、まさにそこは無我の境地。繰り返し冷やしたり熱したりして混乱している身体を、中温風呂のほどよいベールが包み込む。これが本当に気持ち良いからおすすめなんです。今まで色んな温泉に入ってきたけれど、この感覚はここでしか味わったことがない。

ラドンみがすごいんす

 完全に整ってしまった頃には時刻はもう閉館10分前。「おやすみ〜」そんな声がぽつぽつと響き始め、先ほどまでのブラザーたちも一人二人と浴場を後にしていく。少し寂しいエンドロールを眺めながら、人気のない浴場でポツネンとお湯に浮かぶ1日の終わり。蛍の光ではなくサブちゃんのこぶしが、切なく心地よい草津温泉の閉館を知らせる。

 あれこれと想いを巡らせながら鏡を見つめる脱衣室。共に日々を闘う同志であり、同じ湯ぶねに浸かったブラザーとは、所詮“顔と裸”だけ知っている付き合い。ここから出てしまえば名前も年齢も仕事も知らないただの他人なんだ。けれど、身体は健康かな、ご家族とはうまくやってるのかな、そんなことを考えてしまう自分がいる。次いで、なぜか実家の両親や祖父母のことを考える。そして遠くに住んでいる友人のこと、想っているあの人のこと、そんな彼らの家族のこと、みんなのことを考える。

 「ありがとうございました〜」お姉さんの声を背中に受けながら会釈をしてクサツを後にする。お礼を言いたいのはこちらの方、クサツを出た後は何だか頭の中がスッキリして妙に優しい心持ちになる。こちらこそいつもありがとう。

 ・・・・と、こうして草津温泉のことを書いていると、気付けば外は真っ暗。一息入れる頃には時刻は夜の10時近く。今日はちょっと間に合わないなかった。みんな元気かな、笑顔で暮らしてるかな、毎日頑張ってるかな。そんなことをまた今も考えている。色々みんな大変かもしれないけど、1日の終わりにはほっと一息入れて笑って過ごしてくれていればいいな。そんなこと俺が考えても仕方ないか。

 俺も明日からも頑張ろう。そしてまたクサツに行こう。たまには実家に帰ったり、友達に連絡をしてみよう。

ただその前に、今日は一回ここまでにしよう。
みんな今日も1日おつかれさま。

草津温泉
住所:山梨県甲府市丸の内3丁目26−13
TEL:055-270-0257
営業時間:6:00〜22:00
定休日:元日のみ

コメント

タイトルとURLをコピーしました