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残響的薫香 Vol.5「そしたらコミー、あたしを木製バットで殴(ぶ)って」@焼鳥ぶんぶん丸 FLOAT MAGAZINE

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残響的薫香
-まるであの時の香りのような-
by FLOAT MAGAZINE

「そこに滲みついてる空気」ってある。
意図的でないし、自然にあるだなんて片づけたくない。
それらが五感を通り過ぎる時、僕たちは強く「思う」に悦ぶ。
味わい、聴き入り、そそられながら「思う」をくゆらす。
“言葉”から弾かれ漂っているそれらをつかまえてみたい。
酔いきってしまう手前まで。

文/野呂瀬 亮

 報酬は退社後不安定で、投稿は増やせど波もない。ベッケンを620万円分ぐらい下さい・・。手持ち5,000円も持って居ない相生の部屋で、俺はあろうことか頂き物の梨を剥こうとしていた。梨だと?俺が今剥かなければならいないのは梨でも林檎ちゃんでもない。停滞している自分を前進させる“ひと皮”というものじゃないのか・・。俺は果たして今日を頑張ったのか?某芸人のYoutube大学を観て何か学んだようなつもりになっているだけではないのか?だって何よりこのコラムの締切は明日ではないのか!いや、こんな下らない自己総括をしていたって始まらない・・。商売道具はこのマック1つ!「書こう」そう決心した俺に一本の連絡が入ったのだった。

コミー氏「丸の内のぶんぶん丸でW杯コスタリカ戦のパブリックビューイングやるらしいよ。」
俺氏「行きます!」

 即答だった。コミー氏はこんな俺に仕事を与えてくれる慈悲深い大先輩でありながら、ここぞという時に甘い誘惑をチラつかせるサディストでもあるのだ。一度はマックと添い遂げる覚悟をしておきながら、容易く丸の内の白煙に抱かれてしまう俺を誰か本当に殴(ぶ)ってください。

この日もめちゃくちゃ忙しそうだった。

 「焼鳥」と外壁に書かれたぶんぶん丸があるのは丸の内3丁目の穴切通り。明治末期頃のここら一帯は「穴切遊郭」という赤線地帯であり、毎晩寝具で遊戯が繰り広げられていた香ばしい歴史が漂うエリアだ。早速店に着くと店内はほぼ満席。W杯の影響もあるだろうけど、いつ来ても賑やかな常連の声と美味しそうな匂いが通りに漏れ出している。

丸の内のサディスティックマスターゆうたろうさん

 「りょうちゃんよく来たじゃん!たいへん飲んでけし〜!」そんな大将「ゆうたろうさん(漢字知りません)」のひょうきんボイスに迎えられたのはキックオフ30分前のこと。ゆうたろうさんはコミー氏の幼馴染。飲みに来る度に良くしてもらっている慈悲深い大先輩でありながら、閉店後はその場のメンツをスナックの耐久カラオケに拉致するゴキゲンなサディストでもあるのだ。そんな大将の人柄を慕って集まる常連さんも皆個性豊かな先輩方ばかり。正直サッカーにそこまで興味がある訳ではなかったんだけど、こんな青二才とフランクに接してくれる皆さんとのワンナイトがやっぱり忘れられないんだ。もちろんコミー氏もそんな先輩の一人。

ぶりんぶりんの大粒ぼんじり&最高の酒飲みガムこと鶏皮

 「はいりょうちゃん、生、ぼんじり、皮ね〜」天然でお馴染みスタッフ「イサムさん(漢字知りません)」が今夜のスタメンを配置してくれたところでモニターのイレブンたちと共にキックオフ。前半は安定のビールにテッパンの串2本、この3トップで組み立てていくのが俺の流儀だ(ルールよく知りません)。まずはプリップリのジューシープレーヤーぼんじりから頬張る。みたらし団子くらい大ぶりな粒が綺麗に隊列を組み、口の中でプチッと甘い脂を放出していくのをビールが中和させていく。続いてパリッと焼き上がった皮へとサイドチェンジ。トリッキーに折り重なる肉厚なアコーディオンをシャクシャクと奏でながら、残さず鳥の旨味を出し切ったところで、ビールが先制の喉越しをキメていく。

 と、ここまで完璧な流れだったがビールのスタミナを案じてハイボールを投入。一味違うスモーキーなプレーにシュワシュワと歓声が上がるも、追随のもう一品が決まらないままゲームは一時ハーフタイムへと移行していく。

 あと一品・・。後半戦を前に苦悶の表情を浮かべる俺に観かねたイサムさんから投げかけられる鶴の一声「今日イワシ明太子串おすすめだよ〜」。君に決めた・・!0ー0で苦しんでいるモニターのイレブンを横目に後半戦の采配をオーダーする。この頃にはもはやW杯も観ているようで観ていませんでした。

これほんとおいしかったっす。全員食べて欲しい

 「おまたせ〜」後半戦突入と共に運ばれてきたイワシの表面はパリパリに仕上がっている。ホイッスルが鳴るや否やすかさず一口。

勝った・・。

 香ばしい皮目を通過した先に辿り着くしっとりふかふかの身。そしてダメ押しの明太子が口の中に弾けて溢れ出していく。勝ちを確信したここからゲームは怒涛のクライマックスに突入。見事なダイレクトパスで次々を口に運ばれていく2本の串と、絶妙なフォローをしていくハイボールがこのゲームを完全に牛耳っていった。

 「どうで!日本勝ったけ!?(笑)」フードオーダーがようやく落ち着き始めた後半36分。あまり興味の無さそうなひょうきん大将が厨房から顔を出し始めた頃、カタールの会場では悲劇が起こった。

「コスタリカ先制」

 店内は悲痛な声に包まれ、グラスを片手に放心状態になる常連さんたち。厨房に消えていくひょうきん大将。そこからアディショナルタイムを含む約15分間、選手たちは必死に攻め続けるもコスタリカの固い守りを崩すことができないまま、あっという間に時間は過ぎていってしまった。正直パブリックビューイングヴァージンだった俺はこんな時どうしたらいいのか閉口してしまっていた。そんな最中、満を持して再び現れたひょうきん大将が重い口を開いたのだ。

「じゃー今日は負けたからたいへん飲むじゃん!!(笑)」

 拍子抜けしたように和やかな笑顔に包まれる常連さんたち。緊張と緩和で開花してしまったフロアは再び威勢良くアルコールを接種し始めるのだった。可笑しくて笑ってしまいながらも俺は感動した。料理ももちろん美味しいけれど、やっぱりぶんぶん丸の魅力ってゆうたろうさんのこのあっけらかんとした明るさなんだろうな。串屋の彼女になってみたい。

俺、ここに集まる先輩っちが大好きっす

 W杯は悔しい結果に終わってしまったけれど、終始圧勝の楽しい時間に満足した俺はお会計をオーダー。帰ってこの余韻に浸りながらお風呂でも入ろうと思っていた矢先だった。

「何言ってるで。まだ飲んでくに決まってるじゃん(笑)」

 これこれ・・。丸の内のひょうきんでサディスティックな先輩方は完全に息を吹き返していた。サッカーこそ敗れたものの、ここに集う皆さんは「ホームラン or 三振」で日本球界を席巻したあの名打者であり、足元の弱さを顧みずK1リングで両腕を振り回したあのハードパンチャーのようなメンバー、こんなんで終わるようなタマじゃない。ポジティブでナイスキャラな「ぶんぶん丸」たちがやっぱりかっこよくて大好きだ。
 とは言え締切はもう明日、名残惜しいけれど今日はここまでにして俺も一戦頑張ってきます。是非また、ご一緒させてください!

あ、そうそう領収書を。
宛名は税理士まで世話してくれたコミーで書いて頂戴。

焼鳥ぶんぶん丸
住所:山梨県甲府市丸の内3-26-13 小林ビル1F
TEL:055-222-4216
営業時間:15:00~23:00(L.O.フード22:00、ドリンク22:30)
定休日:日曜、その他不定休あり

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