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残響的薫香 Vol.9「kousyappe kon icchoshi」@たべもの市場 とくがわ FLOAT MAGAZINE

EAT & DRINK

残響的薫香
-まるであの時の香りのような-
by FLOAT MAGAZINE

「そこに滲みついてる空気」ってある。
意図的でないし、自然にあるだなんて片づけたくない。
それらが五感を通り過ぎる時、僕たちは強く「思う」に悦ぶ。
味わい、聴き入り、そそられながら「思う」をくゆらす。
“言葉”から弾かれ漂っているそれらをつかまえてみたい。
酔いきってしまう手前まで。

文/野呂瀬 亮

 故郷である南アルプス市、通称「南プス」を離れてからもうかれこれ約5年。甲府の暮らしにも慣れ、日が暮れれば歩いて夜の街に繰り出すようなシティーボーイライフを満喫している俺。いよいよスタイリッシュなネオンが似合う男になってきた訳である。今夜はどんなサーカスナイトが待っているんだろう。…おや、実家から電話だ。

祖父氏「もしもし〜亮け〜。わりぃけんど、明後日あたり太陽(スモモ)をてんだってくれんけ〜」
俺氏(亮)「お〜はいよはいよ〜。ほ〜しろば朝9時っころ行けばい〜っつこんけ?」
祖父氏「ほ〜さな。ほんじゃわりぃけんよろしく頼むじゃんな〜」
ーENDー

…今喋ってとぅは俺じゃんな?(笑)

 いくら“おまち”で暮らしていても、南プスで育った「オリジナル野呂瀬」からは逃げられないのである。俺はどこまでいっても“ももっこ”なんです。あ〜なんか、地元で飲みたい…。

 気付けばハンドルを握り、アルプス通りを爆走している俺。ちょびちょび歩いて飲み行くなんて“こうしゃっぺえこん”言っちゃいんで。

ほんと久しぶりに来たな

 “南プスで飲む”となれば、まず頭に浮かぶのがここ「たべもの市場 とくがわ」さん。美味しいお酒とオリジナルの創作料理を楽しめる地元の人気店だ。南プスのマルハン近く、コの字テナントの東って言えば、わかるさね?

 陽気なマスターのイラストが描かれた垂れ幕、これ見ると“帰ってきた”って感じがするんだよな。「ただいま」心の中で呟きながら引き戸を開ける。

帰ってきました南プス

「おお、なんで久しぶりじゃん!元気にやってるだけ!」

 カウンターから飛んでくる嬉しい甲州弁(濃いめマシマシ)の主はマスターの拇速(ぼそく)さん。相変わらずパワフルで情に厚い大先輩の顔に身体が緩む。続いてとくがわの元気印である奥さん、アンナさんが笑顔でお出迎え。二人ともお元気そうで良かった。

 本当にご無沙汰してました。なんとか元気にやってます。

ボテッとしたフォルムがかわいい

 カウンターに腰を下ろし、駆けつけ一杯目の生ビールを注文。ここの生は小太りのジョッキがキンッキンに冷えていて最高なんです…。そして流石とくがわさん。お供で添えられるお通しの小鉢一つとっても、必ず“ひと捻り”工夫が凝らされている。今夜は人気定番メニューのワンツーフィニッシュを狙っていこう。

 それにしても、久しぶりに来たというのに相変わらずホッと落ち着く店内だ。天井には年季の入った梁が掛けられ、温かみのある暖色の照明がフロアを優しく照らす。賑やかなカウンターから中央のテーブル席を挟んで小上がりの座敷があり、おそらく昔からの仲間であろう往年の大先輩たちがしっぽりと杯を交わす。

 思わず「これこれ」と頷いてしまうほど、個人的には理想的な“地元の居酒屋さん”の風景なのだ。カウンターで常連さんと和やかに話すマスター夫婦を眺めながら、お通しをちびちび。これはビールが進んじゃうな。

マストでいっちゃう…これは必食ですよ

「はい〜明太子の肉巻きフライね〜!」

 ここでアンナさんのハスキーな声とともに、とくがわ人気No.2メニューが登場する。こんがり揚がったきつね色の衣の下には、豚肉、大葉、ほんのりと赤みを残したミディアムレアの明太子が層を成す。堂々たるNo.2の美しい断面に脱帽しながら、いただきます。

 やっぱりこれ大好きだ…。サクッとした衣を噛むと染み出す豚肉の旨味と爽やかな大葉の風味に、奥からプチプチっと弾ける明太子の程よい塩辛さ。こんなの一口でビール無くなっちゃいます。おつまみオールスターズたちによる創作4重奏により、漏れなくジョッキは空っぽに。次はどうしよう…。

「これ、メニューに無いけどおすすめだよ!」

 そんなマスターのレコメンドで登場したのは、千葉県山武市にある寒菊銘醸の夏限定日本酒「OCEAN99 星海 -Starlight Sea-」。何か、わからないけどこれ絶対うまいやつじゃん…。

桝にひたひたと滴る冷酒最高す

 冷酒らしく、ひたひたと枡に浸かったグラスの表面をゆっくり啜る。フルーティーさの後に余韻するほんのりとした甘みと芳醇な香り。涼しげでありながら、ジューシーで華やかな味わいがとても美味しい…。今俺、夏楽しんじゃってます。

「おまたせ〜アボカドマグロです〜!」

 これぞお店の代名詞、満を持して堂々の人気No.1メニュー「アボカドとマグロのサラダ」がお目見えする。これはぜひ一度は食べてみて欲しい絶品なんです。綺麗に丸く整えられた緑と薄紅色の小塔を崩して、いざ一口。

でました!これぞとくがわの代名詞!

 ただいま。野呂瀬、南プスに帰ってきました。滑らかなアボカドとマグロの旨味に重なるマヨネーズのコクとほんのり爽やかな酸味。濃厚な口当たりの中にシャキシャキとしたネギの食感も良いアクセントとなり、まさに“ここでしか味わえない”オリジナルな味わいを演出する。まいった、これは冷酒との無限シャトルランに突入してしまう…。

 良い感じに酔いも回ってしまったので、そろそろ甲府に帰ろうとふと周りを見回すと、フロアにはマスター夫婦の息子さんの姿が。前会った時は確かまだ中学生くらいだったと思ったけど…。すっかり大人になったその姿に年月の流れを実感する。

「仕事は上手くいってる?うちだってもう長いことやってるけど、やっぱ初めはえらかった。でも真面目にやってれば自然とお客さんもついてくれるから。それまで大変かもしれんけど頑張るだよ!」

 帰り際にそんな言葉をくれるアンナさん。時間ばかり過ぎてしまったけれど、あれから少しは成長できたのだろうか。そして今「頑張っている」のだろうか。温かい余韻に包まれながらも、ふとそんなことを思う。

「またゆっくり飲みにおいで!頑張れし!」

マスターの顔見るとほんとにほっとする

 まるで実家の両親に見送られるような、優しく、心強く、背筋が伸びる言葉を受けながら店を後にする。そう言えば前職の会社から独立する際にも、二人からは背中を押してもらった。あれからほとんど顔も出せていなかったのに、こんなにも温かい言葉をくれる先輩がいる。本当にありがとうございます。やっぱり俺の地元は良い所です。

 故郷である南アルプス市、通称「南プス」を離れてからもうかれこれ約5年。甲府の暮らしにも慣れ、日が暮れれば歩いて夜の街に繰り出すようなシティーボーイライフを満喫している俺。

 でも今夜の気持ちは絶対に忘れてはいけないなと思う。地元には背中を押してくれる先輩がいて、そしてかっこいい背中を見せてくれる先輩がいる。まだまだその背中は程遠いけど、自分なりの“オリジナル”なやり方で、もがきながら頑張っていきたいなと思います。

マスター、アンナさんありがとうございました。

明日からもこぴっとやります!

“こうしゃっぺえこん”言っちゃいんで。

たべもの市場 とくがわ

住所:山梨県南アルプス市下今井388-12
TEL:055-284-0283
営業:月~木曜 18:00~24:00(23:00L.O.)
   金~土曜 18:00~24:00(23:30L.O.)
定休:日曜
https://www.instagram.com/tabemonoitiba_tokugawa/

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