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アニメ見ようよ、面白いやつ|令和時代の部活アニメ「もういっぽん!」

COLUMN

2023年も3月に突入しました。皆様いかがお過ごしでしょうか。
俺はと言えば野呂瀬(Ind-ZIN主催)さんから、「漫画やらアニメやら色んな内容でいいからマイペースで記事書いてみて」と言われて唸っておりました。
書いては消し書いては消し、気づけば月も変わりいつまでも唸っていて始まらん!と言う事で「アニメ見ようよ、面白いやつ」という題で好きなアニメを紹介すると決めました。
需要は知らん、でもアニメ見ようよ、面白いから。

©村岡ユウ(秋田書店)/もういっぽん!製作委員会 公式webサイトから引用

さて、あと1ヶ月で今期アニメも最終回です。今期、2023年冬クールは新型コロナウイルスと中国の春節などの影響で放送休止になるアニメが歴代最多という前代未聞のクールとなってしまいました。
そんな2023年冬クールアニメから未だに放送休止にならずに放送を続けている作品「もういっぽん!」を紹介したいと思います。今からでも遅くないのでマジで見て欲しい名作です。

TVアニメ「もういっぽん!」

TVアニメ「もういっぽん!」第2弾PV|2023年1月8日から放送開始
BAKKEN RECORD制作の女子高生柔道部活ものアニメ。原作漫画は現在も少年チャンピオンにて連載中。

https://www.youtube.com/watch?v=jpiz5RLqSgw
『TVアニメ「もういっぽん!」第2弾PV|2023年1月8日から放送開始 ぽにきゃん-Anime PONY CANYON(公式)』

あらすじ

青葉中柔道部の園田未知と滝川早苗は中学最後の試合に臨んでいた。これでもう柔道をやめようと決めた未知は「スパっと一本勝ちで終わりにする!」と宣言する。しかし、結果は真逆で相手の絞め技で一本を取られ、その瞬間の失神した顔のアップがネットで晒されるという悲惨なことに……。何とも残念な終わり方になってしまったが、これで柔道は卒業して受験に専念。9カ月後、青葉西高校には無事に合格した未知と早苗の姿があった。

繰り返される一本の気持ちよさ

本作は主人公である園田未知が柔道を高校進学を機に「胴衣は擦れる、皮がむけて痛い、髪の毛は抜ける、骨は折れるし失神する」等々、沢山の〝楽しくない〟理由で柔道を辞めるところからスタートします。
主人公が部活の苦しさに自覚的で、辞めるというところまで行ったところから始まる今作は他の部活ものに比べて、結構珍しい部類なんじゃないかと思います。
ただ、学生時代、何か部活なりスポーツなりをやっていた人なら分かると思うんですが、部活って本当に楽しくないんですよね。
時間は取られるし辛いし遊べないし、辞めればどれほどせいせいするだろうと考えた事の無い人はいないと思います。そう考えると部活を辞めたがっている主人公像というのはリアルな部活描写としてかなり感情移入できるのではないでしょうか。実際俺は部活を辞めたくて仕方なかった部類の人間なのでかなり感情移入しました。

そんな未知は一話のラスト、柔道で一本を取ることによって気持ちよさを〝思い出して〟心を変え、柔道を続けます。
どれだけ部活が辛くても、めんどくさくても、辞めたくても、最初は何かしらの魅力を感じて入ってるはずなんです。きっと俺もそうだったんです。
未知に関してはそれが一本の気持ちよさであり、それを思い出して柔道を続ける姿は、未だに上手く言語化できない、俺が部活を辞めなかった理由を映像として見せてくれているような、そんな気持ちになります。

また、初心者の主人公がその部活の楽しさに触れるところからスタートするのが部活ものアニメの王道なんですけど、今作では忘れていた経験者が思い出すという再発見の作業を挟むことによって王道の展開をとるより柔道の魅力をより強調する導入に成功しているように感じます。視聴者の感情移入もストーリーの厚みも出せる設定の妙ですね。

アニメーションとしての一本

ただ今作はアニメです。どれだけ設定面や話運びで工夫しようと、画面内で行われる柔道シーンがヘタっていたら説得力は皆無、目も当てられません。じゃあこのアニメはどうなのか。正直、制作現場の状況は分かりませんが、他のアニメがバタバタと放送休止を挟む中、それでも落とさなず毎週放送していることが影響しているのか、日常シーンの作画は割とムラがあってちょっとヤバいかなと思う所もあります。
でもやっぱり肝心なのは柔道シーン、そして一本をとるシーンここが良ければちょっとくらい他が崩れても大丈夫、それが部活アニメという物です。

ということでここで原作者の村岡ユウ先生のツイートを引用したいと思います。

バチバチに決まった構図、演出、作画。アニメの、アニメーションの良い所はこれ!と言わんばかりの出来だと思いません? 俺は思います。見ててものすごく気持ちいい一本じゃないでしょうか。
俺の感性が信じられなくても、本人も柔道をやっておられて、今までの連載8本中5本が柔道漫画(うち1本は柔道全国一位がエイリアンに寄生されて戦う話ですがギリ柔道漫画判定)な原作者さん本人が「不安を吹き飛ばしてくれた」とまで評するアニメの柔道シーン。これだけでも一見の価値ありじゃないでしょうか。

そんな柔道シーンの出来の良さは物語の説得力にも繋がってきます。
作中には未知がもう一度柔道を始めるだったり、先輩が柔道部に出戻りするといった一度辞めた人間が再起するシーンがあります。その理由は「一本の気持ちよさを思い出したから」こういった話の流れはともすればご都合主義的な、かなりチープなものに感じてしまいがちです。ただ今作では一話から延々と視聴者にアニメーションとして一本の気持ちよさを叩きつけているので、抱く感情は「そりゃ戻ってきたくもなるでしょ!一本気持ちいいもん !」です。そんな感情移入を嫌味なく一本を気持ちよく見せるというアニメの上手さだけで演出して、話の説得力に繋げているのが本当にテンション上がります。 名作です。

あくまで部活という距離感

南雲安奈というキャラがいます。
1話から登場してはいるんですが未知の幼馴染、そして柔道部の隣の剣道部の一年生エースという立ち位置での登場でした。
6話でその南雲が柔道部へ途中入部します。理由は「幼馴染である未知ともっと一緒に居たいから」
家族からも未来を嘱望されている剣道部の道を捨てても友達と一緒に居たいと告げる時の切なそうな表情とかほんと良くてクソ重百合展開的な意味でも本当に最高な回です。

ただ個人的には友達という人間関係に惹かれて、というある種今まで取り組んできた剣道部への不義理のような形での転部を凄く肯定的に描いている事に衝撃を受けました。
普通友達と一緒に居たいから部を変えるという描写はやる気のない人物の描写として使われるものだと思います。
現実でも俺が部活に励んでいた頃、そんな理由で転部した人間の事を軟弱物だと断じた経験もあります。
でもこのアニメではそれは別にいい物として描いている。
このエピソードからは、作り手側の「部活なんてこれくらいの適当さでいいんだよ」という独特な距離感を感じました。決して悪い意味ではなく。
勿論主人公はじめ青西柔道部の面々、それに他校の人間はては顧問に至るまで全員が柔道に本気で取り組んでいます。
でも決して旧時代的な、体育会系としての〝部活〟に対して本気で取り組んでいるわけではない。

他にも、予選無しの全国大会、金鷲旗へと出場するため青西柔道部は福岡県に遠征します。

三日間の日程で、「勝ち進めば三日とも試合だけど、初日で負ければ残り二日は遊んで過ごせる」というセリフを主人公と顧問が口にするんです。
正直試合を控えた選手と顧問が思ってても絶対に言っちゃいけないだろと思いました。かのアントニオ猪木も「出る前に負ける事考えるバカいるかよ」という名言とビンタを残しています。
ただ、未知はすぐ後に三日目まで勝ち残りたいとの決意を口にします。
部活なんて空いた日程で遊ぶくらいの適当さでいいんだよ。という価値観を示しつつ、楽しく遊ぶ事と試合に勝ち残ることを天秤にかけた上で、勝つことを選ぶ未知が柔道に本気であることも示す、細かいけど色々詰まったいいシーンだと思います。
高三の引退がかかった試合、負けて冬休み遊びたいと考えていた俺は直視できません。これには猪木も反省でしょう。

競技に本気で打ち込む事と、「部活なんてこれくらいの適当さでいいんだよ」は別のレイヤーにあって両立する、そんな昭和、平成世代では難しい価値観を柔道部という舞台で展開する今作は間違いなく令和世代の部活アニメと言えるんじゃないでしょうか。

俺にもそうやって教えてくれる誰かが居れば、あんなに部活を嫌いにならずに済んだのかもしれないと、このアニメを見ていると思ってしまいます。

キャラデザについて

最後に余談なんですがこのアニメについてキャラが可愛くないという評判をちょくちょく聞きます。
個人的には普通に可愛いという感想しか出ないんですが、確かに原作時点からキャラデザにちょっと癖はあると思います。
柔道と言う題材が題材なので体格は割とがっちりめに、太腿も太く、顔の輪郭も横に広くと、アニメ表現の中で許されるリアリティを最大まで追及している感があります。

一番特徴的だと思うのは目付近の描き方でしょうか。
最近のアニメ絵やイラストでは必須記号のような扱いになっている二重の線が、原作の時点で結構省略されているキャラが多い印象で、アニメでもそれに準拠したキャラデザとなっています。

他にも眉毛と目の感覚が狭めで、更に釣り目キャラ以外も目が細く描かれ気味な印象。一概には言えませんがいわゆるアニメ調で可愛い女の子というのは目はデカく、眉と目の感覚は広めにとってそこにくっきり二重線を描くというのが特徴だったりするので、これが可愛くないという評判に繋がっているような気がします。

じゃあダメなのかというと全然そんなことは無くて過剰な二重にせずに眉と目を近づける事によってきりっとした目元になって、前述のふとましい体格と合わさって滅茶苦茶〝戦う女〟感が出ていると思います。特に原作。

可愛くし過ぎないことによって柔道という競技との違和感を無くすためにやってるのかなと個人的には思います、こういったキャラデザの方が試合中の表情とも合うと思うし、意図しているにせよしていないにせよ、そういった効果は確実に出ていると思います。
あと別に可愛くない訳じゃないです。可愛いです。マジで。俺は南雲が一番好き。フィギュアが出たら買います。

まとめ

もういっぽん、今回言及しなかった部分も間違いなく面白くて、試合展開も熱い良いアニメだと思います。
各種配信サービスで絶賛配信中です。
アニメ見ようよ、面白いやつ。

助六稲荷

徳島県生まれ。長崎→島根→鳥取→徳島→山梨を経て現在は東京在住。

面白いアニメとエモいバンドが好きな20代独身男性。
ギターが弾けます、それ以外は目下勉強中。
よろしくお願いします。

コメント

  1. あーちぇ より:

    他に音楽系記事を掲載されている方きっかけでサイトを見ていたところ、観ていたアニメの紹介が書かれていて興味を持ち、読ませていただきました。
    部活への適当な距離感と競技への真剣さが別のレイヤーで両立している、という表現がとても良かったです👏そして自分も南雲安奈が好きです 笑

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