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残響的薫香 Vol.1「ワインなんてわからん。」@OASIS by FLOAT MAGAZINE

EAT & DRINK

残響的薫香
-まるであの時の香りのような-
by FLOAT MAGAZINE

「そこに滲みついてる空気」ってある。意図的でないし、自然にあるだなんて片づけたくない。それらが五感を通り過ぎる時、僕たちは強く「思う」に悦ぶ味わい、聴き入り、そそられながら「思う」をくゆらす“言葉”から弾かれ漂っているそれらをつかまえてみたい酔いきってしまう手前まで

文/野呂瀬 亮

次の日の朝、ジーパンに残っている昨日の匂いに「仕事行きたくねえ」ってなることありません?自分は殊にそれが、少し酸っぱ甘いオリーブオイルとワインが混ざったような「OASIS」の匂いだったりすると、まだ緩んだOMOIDEを纏っていたい気持ちになる。
甲府中心街は甲府ぐるめ横丁の一画にOASISはある。山梨県産ワインと地元野菜たっぷりの美味しいご飯が食べられる居酒屋さんで、「ワイン好き」でなかったのに、OASISで飲むワインに何故かハマって足を運ぶようになった人も多いのではなかろうか。

オーナーの小池さん

 オーナーの小池さん(写真のメガネのヒゲの優しそうな人)曰く、「お店はお客さんが作ると思ってるから」とのこと。そんないじらしいことを言っちゃうこのおじさんに懐いてしまう中年男性が近年続出しているのだ。イカしてるしオシャレなのに、どこか少し間が抜けていてダサ可愛い。カウンターに並ぶ不可解なフィギュアや、壁に這いまわる落書きの曲線、手洗い場を仕切る暖簾、そのどれもが“肩すかし”をくらったような心地の良い脱力感に溢れている。因みに壁の落書きは、お酔いになったお客さんたちでワイワイ描いたものらしい。なにそのいい感じのエピソード。

店内に流れるBGMは「東京ブギウギ」「日本列島やり直し音頭」「植木等的音楽」など“自分がノレるから”と話す小池さんのにくいセレクト。どれも個性的かつ気持ちの良い横ノリ系でありながら、大らかなうねりの奥には哀愁のような、明日への渇望のような少しの“せつなさ”が漂う。ワインの注がれる音や、チンチンとしたカトラリーの音、向こうテーブルの和やかな語らい、リズミカルな調理の音、それらが折り重なり耳に押し寄せる時僕らは言葉にできない“潤おい”に浸る。ここでワイン飲んでると鼻の奥がツンとしてくる。ここに居るみんな今夜を通り過ぎたら明日が来るから。また一息ついたら頑張らなきゃいけないから。だからOASISに来るんだ。わからないけどきっとみんなそうだ。

「飲食店って感じに書かないで、もっと美味しいお店あるから(笑)」なんて飄々と話す小池さん。では控えめに言いますが、OASISの“鶏レバーのパテ”はマストで食べて欲しい本当に。口の中がスーパーソニックです。舌の上がシャンペンスーパーノヴァです。あとオススメはタコとアボカド、どちらもワイン止まらなくなります控えめに言って。

激ウマのレバーパテ
タコとアボカドも最&高

 約6年前、20件近くの飲食店を渡り歩いて後にOASISをオープンした小池さん。どうせ地元で店をやるなら生産者の「顔が見える」ものがいいと、できるだけ山梨県産のワインや食材にこだわってきたのだそう。でもそれだけの経験がありながらカジュアルでラフなOASISのスタイルを貫いているのはなぜなのだろう。

「お客さんが主役なんだよ。色んな人が集まって繋がっていく中でワインや料理はコミュニケーションのワンクッションでしかない。“ワインが好きな人が集まるお店”ってだけで来やすくなる人もいるし、店内が地元の話題に溢れていたらそれは居心地いいんじゃないかって。自分が良いと思うものが相手も良いと思うわけではないから。」

 お客さんの必要とする料理やお酒しか提供したくないと話す小池さん。そんな背伸びをせず押し付けのないOASISの味は、親近感がありながら小池さんのこだわりを感じる料理ばかりなのだ。それは美味しいわけだ。

ゆるめの落書きもいいっすよね

「無理してカッコつけてた時もあったけど、息詰まっちゃったんだよね。」自身の過去をそう振り返る小池さん。ついカッコつけることばかり考えて、求められることばかりに敏感になって、分かっちゃいるけどやめられなくて。僕たちはしばしばそんな狭い世界でハイになっている間に自分を見失ってしまう。“ありのまま”なんて少し甘えていると思っていたけれど、OASISの懐にはそんな“ダサい自分“を優しくほぐしてくれるような包容力がある。小池さんをはじめここに集まる人々は、今のちょっとダサい自分を受け入れ、許して、向き合って生きているんだ。逃げずに向き合うことの、どれだけ強くしなやかなことか。

「ここはちょっとダサいぐらいでいい、あえてハズしていたいよね。」少しだけ真面目に話すと、小池さんはいつもの気の抜けた声で笑っていた。

一見ラフでピースフルなOASISでも、ここは日本列島のど真ん中。誰がなんて言おうとも僕たちは勤勉な僕たち日本人でいなければならない。だから、たまにはここでガス抜きして、しくじりあったらやり直し、ピントがぼけたらとり直し、喉を潤してまた明日を生き続けていくんだと思う。ここがあるから、きっと大丈夫だと思う。

誰かも言っていた「あなたをここに招きたい」って。
いつだって何か素敵なことを、あなたを待ってるよOASISで。

OASIS
住所:山梨県甲府市中央1-6-4
TEL:070-2800-7119
営業時間:12:00-14:00(平日のみ)18:00-26:00
定休日:日曜・その他不定休
駐車場:無し(近隣に有料Pあり)

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