MUSIC & CULTURETOPICS

「さようならpaionia」2023.5.6(sat)「魂とヘルシー paionia 15th」ライブレポート @渋谷CLUB QUATTRO(後編)

MUSIC & CULTURE

 2023/5/6(土)渋谷CLUB QUATTRO「魂とヘルシー paionia 15th」。paionia結成15周年を記念した約11ヶ月ぶりの単独公演も、気付けば後半戦へと突入していた。まるで彼らの歩みを映した一本のロードムービーのような前半戦。MCとともにようやく垣間見る3人のリラックスした表情に、オーディエンスたちも丹田の力みをほぐしていく。


「ここでゲストをご紹介します。」
 
 高橋勇成(Vo/Gt)の呼び込みで、長野県松本市で開催された「RINGOOO A GO-GO 2014」のグランプリ獲得で話題となった「ノンブラリ」から、Vo/Keyの山本きゅーりがステージに登場。paioniaとは同レーベルに所属しており、2022年2月にリリースされた2ndフルアルバム「Pre Normal」にもサポートとして参加している。一時演奏から退く菅野岳大(Ba)と佐藤謙介(Dr)の眼差しに見守られながら、山本の鍵盤に指が落とされていった。

Photo by タカギタツヒト

 高橋のピンボーカルで歌い上げられる“フォークソング”(1stフルアルバム「白書」2018年6月)は、切なくも多幸感を漂わせる音色だった。それまで背負っていた何かを降ろすように置かれたギターの傍ら、《悲しい歌を歌っちゃうなんて/甘えてる》そんな言葉が、水面を静かに叩くような鍵盤と山本の透明感あるコーラスの羽衣に包まれていく。

Photo by タカギタツヒト

 続けて披露されたのは2021年7月にデジタルリリースされた“小さな掌”。《ありがとう/光が溢れて/あなたに逢えて/明日に花が咲いた》、正直彼らの楽曲の中にここまで素直な言葉を見るのは稀有ではないだろうか。自ら掻きむしった「語り尽くせない自分とやら」からドクドクと滴るそれではない。安らかさを帯びた言葉と歌声に音楽が寄り添っていくようだった。

Photo by タカギタツヒト

 今までずっと自分のことばかり書いていたんですけど、やっぱり他人がいて、俺がいる。大事な人だったり、大切な人が幸せになってくれたりするのが自分の幸せだなとか、もっと他人を意識するようになった。

俺たちはあの日の俺たちと抱きしめ合える日を夢見てる──paioniaが辿った音楽人生の現在地点[StoryWriter]

 これは2020年6月「StoryWriter」に掲載された西澤裕郎氏によるインタビュー記事、『俺たちはあの日の俺たちと抱きしめ合える日を夢見てる──paioniaが辿った音楽人生の現在地点』で語られた高橋の言葉だ。オリジナルメンバーであるドラマーの脱退から約8年。サポートメンバーを迎えながらも必死に「信念、信条」を貫いてきた彼らの周りには、paioniaを愛する多くの人たちがいる。「Pre Normal」には、そんな同胞たちとの日々で生じた柔らかな変化を彷彿させる楽曲が多いように思う。続けて同アルバムから“灯”を演奏し、穏やかな拍手に見送られながら山本はステージを後にした。

Photo by タカギタツヒト

 終始和やかなムードに包まれる後半戦。「二人だけではこんな大きなステージ立てなかった」、そんな言葉がサポートドラマーの佐藤やオーディエンスたちに向けられると、フロアは大きな歓声に包まれる。“暮らしとは”(「白書」)、“浪人”(1stミニアルバム「さようならパイオニア」2012年3月)、「Pre Normal」から“手動”を披露。終盤に向け緩やかに加速していくグルーヴに会場の体温は高まっていく。

Photo by タカギタツヒト

 2021年7月にリリースされた“鏡には真反対”と、立て続けに同年9月リリースの“金属に近い”が演奏される。15年間バンドマンであり続けるということは並大抵のことではない。「金と愛」の狭間で複雑に変化する環境の中、必死にもがきながらも掴みかけている「探していた物」とは一体どんな物なのだろうか。《悲しいね/悲しいね/悲しいね》、悲哀のような決心のような彼らの表情が印象的だった。

Photo by タカギタツヒト

 “after dance music”(「白書」)、“いまだにクリスマス”(2019年2月デジタルリリース)が連なり、満を持して彼らの代表曲の一つでもある“素直”(「さようならパイオニア」)のイントロが始まる。オーディエンスは声を上げることもなく、静かにステージを見つめていた。《酒気帯びでしか語り合えない/そんな虚しい自分って何ですか》。20代だった彼らの素直で身も蓋もない蒼き気鬱が、あれこれ分かったような顔をしていた心の内側に満ちていく。

 私事だが、以前一緒に乾杯を交わさせてもらった際、真っ直ぐこちらに向けられた黒く透明な勇成さん(敢えてそう呼ばせてもらう)の眼差しや表情がずっと忘れられないでいる。素直な目、まさに今ステージで歌っている彼のその目だ。

Photo by タカギタツヒト

 終演目前、2023年8月2日 3rd ミニアルバム(タイトル未定)のリリースが発表されると、会場には大きな歓声があがる。前作から約1年半という短いスパンで、かつ各地での精力的なライブ活動と並行しながらの楽曲制作は容易ではないだろう。「頑張っている作品です」そんな高橋の言葉もあったが、近年次々と新曲を発表し続けている彼らの凄まじい気概と集中力には全く驚かされるばかりだ。

 「関わってくれたたくさんの人にこの場を借りて感謝をお伝えします。もっとたくさんの人に伝わるように、明日からも歩んでいきます。」

Photo by タカギタツヒト

 最後まで一貫して朴訥としたMCを前置きに、本編最終曲“人の瀬”(「Pre Normal」)が演奏される。《擦り減らすのは心じゃない/その靴底と知るために》。自らの心を擦り減らし、そして自らの言葉を重ねてきたpaioniaの15年間。殊に活動を再開してから始まった8年間の胎動期は、荒波をもがき続ける苦しい年月だったかもしれない。もしかするとそれは、そんな彼らを見つめ続けてきた僕たちリスナーも同様だったのではないだろうか。少なくとも自分はそうだ。

Photo by タカギタツヒト

 《差し延べられた声の光に/見惚れていただけの非力さよ/これからいくつ返せるだろう/この情熱を残したままで》。「これから」の歌だ。まるで熱く断続する呼吸のように押し寄せる音の波が「これまで」の憂鬱を心地よくさらっていくようだった。気が付くと感情の堤は断ち切られ、ぼろぼろと涙が頬をつたっていた。

 眩しすぎる照明の中、会場はこの日一番の拍手と声援に包まれる。3人が去っても当然拍手は鳴り止むことはなく、潤んだ眼で彼らを待つオーディエンスの想いに応えるように、3人は再びステージに上がった。

「こんな良い日があるんですね。生きていると。」

 そんな高橋の言葉の後、未発表の新曲“プロダクト”から単独公演の第二章がスタート。リズミカルに爪弾かれるギターを序章に、後半は切なく叙情的なアンサンブルを展開する。エモーショナルながらどこか軽やかさを帯びた音色が心地よく、ゆらゆら身体を揺らすオーディエンスたちも穏やかな表情を湛えていた。

Photo by タカギタツヒト

 MCはなく、2019年6月にリリースされた“みんな言えないでいる”のライブバージョンが始まる。《幸せはいつも僕をその気にさせては/君を不安にさせる/そんな繰り返し/たまにキツいけど/僕らはそれを愛と呼ぼう》。深く残響していく音像に乗せられた不器用な愛の言葉が、歪み、浮き足立ち、擦りむいてしまった過去たちを優しく憩うようだった。みんな何を言えないでいるのだろう、果たして自分は。

 最終的にステージはダブルアンコールにまで及び、新曲を結びに全24曲に渡る「魂とヘルシー paionia 15th」は幕を降ろした。終演後間もなくして3人がフロアに現れ、多くの友人や関係者と共に記念すべき15周年を讃えあう姿があった。彼らの清々しい表情に心が柔らかく解けていくようだった。

Photo by タカギタツヒト

 確かに自分はこの目でpaioniaの15年間の生き様を見た。バンドが生き物と言うのならば、彼らほど正直で生々しい胎動を、痛々しくも愛おしい「人間」の姿をさらけ出し続けているバンドを自分は他に知らない。それ故にpaioniaはバンドから愛されるバンドであり、そんなバンドのライブを観られることは何物にも変え難い救いなのだ。この日を目の当たりにできるまで生きてきて本当に良かったと、心からそう思う。

 paioniaの「第三期」はもしかしたら一度死を迎え、生まれ変わったのではないか。個人的にはそんなことを思ってしまう。ここまで様々な言葉を尽くしてきたが、「魂とヘルシー paionia 15th」は間違いなく最高のライブだった。これほどステージとフロアの垣根を感じさせない、等身大なライブを観たのは初めてだったかもしれない。彼らの鎧も服も持たない丸裸の15年に改めて感謝と賞賛を、そして労いを贈りたい。

 東日本大震災のあった2011年大学1年の秋。バイト先のライブハウスで初めて彼らの音楽と出会ってから、約12年という一つの長い季節が終わったように思う。変わらぬ朝に負けないように、これから生きていきます。

さようならpaionia。
15周年おめでとうございます。
これまで本当にお疲れさまでした。
これからも愛しています。

Text by 野呂瀬亮 / Photo by タカギタツヒト

レポート前編はこちら


●セットリスト
01.何待ち
02.現代音楽
03.1988
04.11月
05.わすれもの
06.跡形
07.東京
08.黒いギター
09.夜に悲しくなる僕ら
—————————–
<with 山本きゅーり(ノンブラリ)>
10.フォークソング
11.小さな掌
12.灯
—————————–
13.暮らしとは
14.浪人
15.手動
16.鏡には真反対
17.金属に近い
18.after dance music
19.いまだにクリスマス
20.素直
21.人の瀬
—————————–
<Encore1>
22.プロダクト
23.みんな言えないでいる
—————————–
<Encore2>
24.新曲(タイトル未定)

コメント

タイトルとURLをコピーしました